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Ecco!No.1 脳のブラックボックスこそリハビリテーション医学の最重要テーマだ

編集:認知運動療法研究会
製作:協同医書出版社編集部
(1999年1月5日)

宮本省三:

 この部屋に飾ってある絵画や写真は非常にハイセンスで芸術的です。そ ういったものへの興味やご経歴も含めて先生からお話しを。

カルロ・ペルフェッティ:

 一つの仕事に真剣に取り組んでいる人間にとっては誰でもそうだと思うが、仕事自体が、自分の世界観の一つのフィルターになる形で、何を 見るにあたっても一つのものの見方の出発点として作用してくる。 僕の部屋にはいろいろなものが飾ってあるが、それもある意味では、自分の仕事の一部を構成しているものだろうというふうに思う。

 僕は神経内科医だが、25年前までは神経生理学の臨床医として働いていた。1975年頃までにリハビリテーションということに非常に興味を覚えてその仕事を始めたんだが、その当時イタリアのリハビリ界で主流を占めていたのは、神経運動理論、ボバースやカバットの方法だった。だけど僕は、その方法が人間の脳、特に中枢神経に対してあまり注意を払っていない、人間の記憶や知覚といったものをほとんどリハビリの研究対象として捉えていない点に、非常に疑問を持った。

 1970年代という時代にはすごく大きな二つの出来事があった。その当時はそれまで行動心理学が主流だったのが、知覚心理学に変わった。神経運動理論はむしろ行動心理学の理論に立っていて、入力があって出力があるという図式のブラックボックスの中で何が起こっているかについてはあまり追究の対象としていなかった。知覚心理学の台頭とともに、僕たちは、むしろその脳のブラックボックスの中で何が起こっているのかということを把握していかなければならないと考えた。

宮本省三:

 認知運動療法の革命的というか大きな考え方の変化を可能にしているものについてはどうですか。非常に天才的なイマジネーションがあるような気がしてますが。

カルロ・ペルフェッティ:

 行動心理学の知覚心理学への転換に加えて、神経生理学の方でも非常に大きな変化があった。1970年以前の生理学者は、人間の脳の研究について、ネズミやネコという人間よりも構造的に単純な脳を持った動物の解剖や研究をもとにし、脊髄部分については神経経路などでも非常に研究が進んでいたが、いわゆる脳の部分についてはあまり基礎研究はなかった。1970年以降だと、サルを使った脳実験などが行われるようになって、脳と脊髄を分断したりせずに、脳全体を含めた動きや行動の研究がなされるようになった。だから、僕らは別に自分たちでまったく新しい方法を発明したわけではなく、1970年時点に台頭し、かつ世界的に認められた新しい理論をリハビリに使っただけだ。

沖田一彦:

 アメリカなどのリハビリ医学関係の書物の参考文献を見ると先生のものと似ていて、理論的にはかなり近くまできていると思いますが、具体的な訓練方略として新しいものは考え出されていません。そういうのを見ると、どうやって先生が具体的な方法を考え出したのか非常に不思議なんです。

カルロ・ペルフェッティ:

 それは、そういうものを書いてきた人たちは『リハビリ専門家』じゃないからだ。リハビリの本来の仕事、リハビリ専門家の仕事というのは、自分たちが見たものとか理解したものを運動に翻訳するということなんだ。要するに、たとえば神経生理学や心理学の論文を読んだら、これを実際にエクササイズに応用するにはどうすればいいのか。それを常に考えていくのが、リハビリ専門家の仕事、狙いだ。

宮本省三:

 そういう考え方に立って認知運動療法を実際に始めたのはいつ頃ですか?

カルロ・ペルフェッティ:

 僕も年をとってしまったが、うーん、30歳ぐらいのときかな。もっとも25年前と今とでは、やっていることは非常に変わってきている。その出発点について言えば、1970年当時に一番のもとにしたのは、やはり旧ソ連の生理学者のベルンシュタインだ。それからアノーキン、ヴィゴツキー、ルリア。その運動分析、それが非常に重要だった。ソ連の学者たちが僕らに教えてくれた一番基本的なことは、行動つまり筋肉の収縮というのは、いろいろなリングがつながってできる鎖の一番最後のリングだということ。だから、その鎖の一番最後のリングである行動から始めるのではなく、その行動というリングの前にあるところから対処していかなければならない。ベルンシュタインもアメリカで少しずつ知られてきてはいるが、やはりアノーキンがサイバネティクスの点で一番重要だと思う。ただ、パブロフ、スターリン時代のソ連では、アノーキンは決して優遇された学者ではなかった。パブロフが行動の主体性というものをある程度排除していたのに、また持ってこようとしたからだ。

 僕らの方法が25年の間にどういうふうに展開してきたかと言うと、すべての科学と同じようにリハビリというのも、まず問題があってからすべてが始まる。問題というのは、リハビリの場合には『裏切られた期待』と言える。たとえば、まずこういうエクササイズをやって、こういった動きができるようになりたいと思って一生懸命練習するが、できない。それが『裏切られた期待』。そこが、最初の問題として提示された。問題を順々に解決していくためには、まず問題がどれかわかったら、それを解決するための仮説を立て、その次にそれが本当に正しいかどうか検証することが必要だ。検証にあたって僕らが大きな拠り所としているのが、哲学者のカール・ポパーだ。たとえば、従来の神経運動理論では、手の動きというのは回復が極めて困難だということがある。片麻痺の手の機能をどうして回復できないのかということが、一つの問題として提起される。そこで、手の触覚が十分に使われないために手の機能が回復しなかったという仮説を具体的に立てる。まず問題として、機能回復が成功しなかった。その原因を解決する仮説として、触覚が十分に利用されていなかったと考える。この仮説を検証するために、手の触覚を使うエクササイズをやってみなければならない。具体的な方法は訓練室で見てもらえるが、パネルを利用して手の触覚を使う。僕らの仮説を検証するために編み出された方法だ。ただ、その仮説というのは、仮説が全面的にいいか悪いかではなく、仮説の一部は正しいが一部が間違っているという場合もある。黒か白かとは言いきれないことがあるわけだ。だから、こういった訓練方法を作り上げていくために必要なことは、うまくいったところを見て「うまくいった、よかった」と言うのではなく、うまくいかなかったところに目をつけて、どうしてそこがうまくいかなかったのか考えて対処していくことだ。それこそが訓練方法を発展させていく鍵になる。ポパーの哲学を基本にしているという話しをしたが、その内容を非常に簡単に言うと、本当の科学者というものは、自分の立てた仮説を検証していく中でのエラー、間違いを探していく態度を持つというものだ。そして、その仮説の中の間違った部分に目をつけて、そこの中でもう一つ新しい仮説を立てる。こういった態度とは反対に、検証してよかったところにだけ、それは滅多にないことだが、そこだけに着目していたらその方法に発展はあり得ない。

沖田一彦:

 アメリカのリハビリ医学というのは、いわゆる自然科学的なデータ重視の姿勢が特徴的ですが、仮説を恐れている感じがします。あんな方向に突き進んでいても、新しい方法はもう何も生まれてこないんじゃないか。その点で、先生が思い切った仮説を立てて、そこから対策を具現化していくことに非常に興味を持っているんです。

カルロ・ペルフェッティ:

 ポパーがいみじくも言っていることだが、科学はデータから生まれるのではなく仮説から生まれる。あるいは、問題提起から生まれてくる。

宮本省三:

 認知心理学の影響についてはどうでしょう。

カルロ・ペルフェッティ:

 その中でも特にどういうところの話しを聞きたいのだろうか? たとえば、知覚とか、記憶とか、空間とか。そういったところに対するアプローチの仕方というのを、認知心理学から応用している。

宮本省三:

 僕たちの今の理解の段階では、ピアジェから始まって、アメリカのナイサー、ギブソンからマンドラーあたりまでですが、記憶などのところまではまだちょっと...。

カルロ・ペルフェッティ:

 アノーキンについて言ったことと重なってしまうが、ヒトが何か行動・動きをした場合には、それはその人が以前に自分の脳の中に蓄えてきたいろいろなリファレンス(照合)があってそういう動きが出てくるわけで、出てきた動きそのものを捉えるのではなく、既に蓄えられているものとのリファレンスこそが重要なのではないかということだ。そういう基本的な学習過程における脳の記憶システムが重要だと思う。

宮本省三:

 シュミットという体育系の学者がアメリカにいますね。これは運動の記憶、運動学習におけるスキーマ理論ですけども、バックグランドとしてあるんでしょうか。

カルロ・ペルフェッティ:

 シュミットの提示しているスキーマ理論は、アノーキンの言っていることに非常に近い。だから、基礎系の学者との協力関係は非常に大切だ。たとえばイタリアではたいていの生理学者はリハビリに興味がないが、僕らの方でむしろそういったテーマの学会などを開くときに生理学者を呼んで、自分たちに興味のあるテーマで話してもらうようにして、なるべく生理学者を巻き込むように努力している。

宮本省三:

 リゾォラッティという神経生理の先生は日本でも非常に評価が高いです。

カルロ・ペルフェッティ:

 彼に興味があるなら、今電話してあげようか? ここから一時間ぐらいのところ、パルマにいるから。ちょうど今年の学会で、日本の生理学者の酒田の頭頂葉の論文について話し合ったところだ。

宮本省三:

 いえいえ、それはまだ...。日本で酒田先生にペルフェッティ先生のことを話したときには、リゾォラッティ先生のところで研究している人かと逆に聞かれたことがあります。

沖田一彦:

 訓練方法にも非常に興味があるのですが、もう少し具体的なテーマに進めましょうか。

カルロ・ペルフェッティ:

 どういうテーマを話せばいいだろうか。空間、姿勢制御、足の機能、いろいろあるが。姿勢制御については、最初僕らはナッシュナーから勉強したが、ナッシュナーはちょっと評価できないと思う。特にシナジーの解釈に問題がある。25年前に最初にとりかかったのは手のことだったが、それをやっていくうちに手に有効な運動は、足にも同じように有効だということに経験的に気がついた。足の感受性というのは、手の感受性と同様に非常に重要だ。足の動きというのは、大脳皮質の上ではかなりの頻度で手の動きと同じように重なって再現されていることがある。こんな感じだが、実技指導の時間も必要だし、どうしようか。

沖田一彦:

 足の機能についてお願いします。

カルロ・ペルフェッティ:

 それでは、今から足の機能について一時間ぐらい講義しよう。

(1994年10月イタリア・スキオ病院にて/通訳・小池美納)

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