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EssayNo.1  「奈義の龍安寺」を見に行った話

沖田一彦(理事,副会長)

 去る3月19-21日,東京で「第5回認知運動療法アドバンスコース」が開催された。その2日目に,講義の一コマを担当していただいた東洋大学哲学科の河本英夫氏のはからいにより,建築家の荒川修作氏がコースにやってこられ,私たちに講義というか授業というか,とにかく“話し”をされた。

 荒川氏といえば世界的に有名な建築家である。それも,単なる建築家ではなく,芸術,哲学,科学を横断し,それらの解釈と総合を建築という領域で実践されている人物だ。私のような芸術とあまり縁のない人間でも,岐阜の「養老天命反転地」くらいは知っていた。また,河本氏から『建築する身体』(荒川修作+マドリン・ギンズ・著,河本英夫・訳,春秋社,2004年)という書籍を事前にいただき目を通していたが,実際に話を聞くのはもちろん今回が初めてだった。

 コースでの荒川氏の話は“変わっている”をはるかに通り越していた。挨拶も前置きもない。河本氏に紹介された後,いきなり「みんな,意識とか免疫とかいうものは身体の内にあると思っているだろ。あれは実は外にあるんだ。気が付かないか?」から始まって,「リハビリ,リハビリと言うけど,病室からトイレに行く廊下にジャングルジムを置いてみろよ。するとどうなる? 患者は食事しているときから次の排泄のことを考えなくちゃいけなくなるだろ」まで,私のような凡人にとっては理解の枠を超えた話のオンパレードだった。そして,しまいに「私は死なないことにしてるんだ」と言われたときには,本当に久しぶりに目が点になった。

 しかし,全体を通して強く感じたことがあった。それは,「この人は生きた言葉しか話さない」ということだった。なぜかそれがコースの後もずっと心に残っていた。そこで,先日,息子を誘い「奈義(なぎ)の龍安寺」という有名な作品が収められていると聞いた岡山県の『奈義町現代美術館』に行ってみることにした。道中で季節はずれの雪にみまわれ,「こんな山奥に本当にそんなものがあるんだろうか?」といぶかりながら高速道路を北上し,3時間かけて奈義町に到着した。町の中心部から北に伸びるゆるやかな丘陵のふもとに,その小さな美術館はポツンと建っていた。

 平日の午後遅くだったこともあり,入場者は私と息子の二人だけだったが,そこで体験した「奈義の龍安寺」は期待した以上の知覚空間で,思わずため息が出た。それは,コースで河本氏が紹介されていた通り,「龍安寺の石庭を巨大な筒の中に入れた」ものだった。興味深かったのは,またしても「作者は何を思ってこんなものを作ったのだろう」と考え込んでしまった私とは対照的に,同行した息子は,展示室への階段を「何か感覚的に昇りにくいぞ」と不思議がり,展示空間に入った途端に「ハハハー」と笑い,中央に配されたシーソーから上を見上げて「上に吸い込まれそう」と喜ぶなど,ずっと素直に知覚経験を楽しんでいたことだった。右脳人間の彼(多分そうだと思う)は,別に展示してあった「養老天命反転地」のポスターを見て,「ここにも行ってみたい」と言った。

 一方,左脳人間の私(間違いないなくそうだと思う)が驚いたのは,「奈義の龍安寺」の手前の部屋に展示してあった荒川氏のデッサンと,ワープロから打ち出されただけの河本氏による生の解説文だった。解説文はペラペラのポケットファイルに1頁づつ入れられ,『建築する身体』の見本書籍とともにベンチの上に無造作に置かれていた。同じものが壁にも貼られていたので,そちらの方を読んでいるうちに,私はこの二人のことをかなり誤解していたことに気づき,何だか申し訳ないような気持ちになった。同時に,自分が実際にここまで足を運びそういう気持ちになったことの意味についても考えていた。そして,外の雪の勢いは衰えていなかったけれど,久しぶりに暖かい気持ちになって家路についた。

  『建築する身体』には「人間を超えていくために」というサブタイトルが付けられ,序文には「このタイトルに代えて,なお別のタイトルがあるとしたら,それは一体何なのか。生命の建築こそ,それである」とある。また,「だが私たちの作業は,一から十まで生命を構築するというより,生命を作り変え,再度かたちをあたえることにかかわっているのだから,本のタイトルとしては生命の構築を採用できないことになる」とも書かれている。さらに,彼らの作業と,自己組織化,オートポイエーシス,人工生命,意識研究といった領域と「向かっている方向は,同じである」とも。

 コースでの荒川氏の話は,NHKの『課外授業・ようこそ先生』という番組で4月下旬に放送されると聞いた(内容は大幅にカットされるだろうけど)。本来,この番組は各界の著名人が自分の母校に授業をしに行くという主旨のものだが,氏が「僕の課外授業は母校だけに限定されない」と主張し,河本氏の紹介があって私たちのコースへの出張講義が急遽実現したらしい。研究会会長である宮本省三氏は,レセプションの挨拶で,今回の企画のことを「自由に考えていいんだというメタファーとして捉えてもらっていい」と発言していたが,先の「向かっている方向が同じ」という点を「どう同じなのか」と考えてみることはとても楽しいことじゃないかと,奈義に行ってそう思った。

 少し遠いけれど,興味がある会員はぜひ行ってみてください。

建築する身体ポスター

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