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EssayNo.4  パリに恋して;ポンヌフ(Pont-Neuf)のように

森岡 周(理事)

 私は自他ともに認めるパリ(Paris)好きである。「イタリアより創造する臨床を目指して」と始まるこのホームページにはとってもそぐわないかもしれないが、イタリアよりフランスが好きであることは事実である。しかたない。なぜか?と聞かれてもわからない。パリの雰囲気が好きというべき抽象的なものなのか。同じヨーロッパでも全然違うクオリアが存在するのか。パリは大都市だが生活感がある。何よりも全てが文化的であるし。イタリア人は陽気だが、フランス人はどこかアンニュイ(ennui)とでも言えよう気怠さを感じさせる。人との議論は好きだが、決して干渉はしない。しかし、それらが私をパリに引きつけさせる理由とはならない。説明がつかない。ただ、パリと聞くと何とも言えない「せつない」私の感情というものが沸き立つ。それしか言いようがない。パリをイメージすれば、その空の下の匂いまで共通感覚(sensorium commune)が生起してしまうのである。

片麻痺患者に対する認知運動療法 終生「身体の現象学」について、メタファーを用いて論じ続けたMaurice Merleau-Pontyは、諸感覚と運動との情報変換における翻訳体系としての身体経験を共通感覚と呼んだ。この共通感覚を用いることによって、人間は世界の中で滑らかに知覚したり行為したりすることができる。たとえば、他者の行為を模倣しようとする者は、この共通感覚(コード化)のおかげで他者についての視覚的感覚を直接に自分の身体の姿勢や運動に翻訳できるといったミラーニューロンシステムも元を辿れば共通感覚なのである。

 そういえば、Merleau-Pontyもフランスに生まれパリでその生涯を終えた。「我思う故に我あり」のRen'e Descartes、「意識は世界との関係である」のJean-Paul Sartre、最近では「すべての行為は認識であり、すべての認識は行為である」のFrancisco J. Varela(チリ人)も確かパリで生涯を終えたと思う。パリには身体哲学がよく似合う。一方、記述医学に終始したJean Martin CharcotやJoseph Babinskiもパリ・サルペトリエール病院で患者を診続けた。パリには記述科学がよく似合う。

 フランスにおける認知運動療法といえば、メトロのオデオン駅すぐ、サンジェルマン・デ・プレ界隈の医学書を取り扱っている書店「Librairie Vigot-Maloine」で、Carlo Perfetti氏著のL’exercice therapeutique cognitive pour la reeducation du patient hemiplegique」(図1)に遭遇した。フランス版「片麻痺患者に対する認知運動療法」である。非常に軽く、中には写真が散りばめられ(図2)、わかりやすそうな本であるが、あくまでも(そうだ)に止めておこう。私の語学力を恨みたい。フランス語に興味を持たれた会員は私までご一報を! なお、図2のセラピストの被写体は2000年4月「子どもの認知運動療法」を講演されたIse Breghi女史である。

 さて、話を変えよう。パリにはセーヌ川にかかり右岸と左岸を結ぶPont-Neuf(ポンヌフ)というパリで一番古い橋がある(図3)。ここを舞台にした「ポンヌフの恋人(Les amants du Pont-Neuf)」(1991年)という映画があるが、その映画の中でまさにこの橋は映像的イメージを飛翔させる場所となっている。映画「ポンヌフの恋人」のストーリーはというとポンヌフで生活する浮浪者アレックスと、失明にいたる不治の眼病に冒され、失意のあまり家を飛び出した画学生ミシェルの宿命的な恋物語である。なんだか日本でも最近似たようなストーリーがあったが・・・

Ise Breghi女史 実はPont-Neufとは「新橋」を意味している。その橋は1604年に竣工された。今となってはセーヌ川にかかる最も古い橋である。しかし、今もなお絶え間のない車の流れに平然と耐えている。私の好きな印象派画家のAlfred SisleyやPierre-Auguste Renoirにも描かれたこの橋は、何回もの修復(更新としよう)を受けているとはいえ、どんな増水にも崩れなかった。ポンヌフの頑丈さは有名で、フランス語には「ポンヌフのように丈夫」と慣用句も存在する。

 日本認知運動療法研究会は2000年に生まれた。今後どのような医療情勢の増水にも崩れず、日々新しく更新され、「ポンヌフのように丈夫」でありたい。そして、いつまでも「新しい」と感じる(感じられる)ように。「認知神経リハビリテーション」は止まってはいない。自らも立ち止まってはいられない。

 2005年6月2日 パリの空の下で

Pont-Neuf(ポンヌフ)

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