認知神経リハビリテーション学会

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EssayNo.14  静寂

荻野 敏(理事)

 2010年5月、初めて海外に一人で渡航しました。過去、海外はシンガポールに一度、韓国に一度、イタリアマスターコースに4回参加していたのですが、一人で海外に行くのは初めての経験でした。認知運動療法を勉強しはじめて、いずれはマスターコースに行きたいのでイタリア語を勉強しようと思ったのが8年前。「ぼんじょるの」という挨拶からはじめて、今まで様々な単語を覚えてきました。少しだけ日常会話に慣れてきたし、やはり一度サントルソの生の臨床風景を見てきたい、僕の思いがふつふつと湧き上がり、一大決心をしてサントルソの認知神経リハビリテーション研究所へ1ヶ月行くことに決めたのです。もちろん、僕にも家族がいます、少なくとも金銭的な都合で、家族で行くわけにはいかない・・・。しかもその間の仕事を休まなければいけません。当院の院長に相談して休職という形をとってイタリアに行くことになったんです。さまざまな不安とそして期待を胸に秘めて、一人で成田空港からミラノに向かいました。

 イタリアに着いてからはドキドキの連続でした。全くの一人ですので、日本人の話し相手はいません。完全アウェー状態です。当然、相手はイタリア人ですので日本語は全く分かりません。あたりまえですけどね。僕がイタリアで暮らしたのは5月から6月です。気候的には最高でした。日本では梅雨に入ろうかという頃ですが、向こうは雨はほとんど降らない時期で、日差しも強くなりつつある季節です。直射日光を浴びるとさすがに暑く感じるのですが、カラっとしているので日陰に入ればすごく涼しいんです。しかも、緯度が高いので夕方は夜9時頃まで明るく、子供たちがサッカーをしている声がよく聞こえました。もちろん、イタリアにはコンビニはありませんので、向こうでの暮らしは日本の便利さになれていると不便なところもありますが、それでもおおむね快適でした。

 さて、本題に入ります。僕の臨床見学が始まる週から、イタリアのベーシックにあたる「Primo livello」がちょうど始まりまったんです。たまたまこのコースに参加することができたんですが、これが大きな収穫でした。基本的にイタリアの「Primo livello」は1週間行われます。座学が中心ですがもちろん実技もあります。講義の中で多くのイタリア語を学ぶことができました。もちろんそれまででも「spalla(肩)」とかの単語を覚えていきましたが、知らない単語の連続をシャワーのように浴びることができたのです。よかった反面、相当に焦りました。如何にいままで、アドバンスコースやマスターコースを受講してもイタリア語ではなく日本語を主に聞いていたかがわかりましたよ。講義で出てきた単語を調べてメモ帳一つを単語帳にして覚えまくりました。そんな経験をさせてもらったことは大きな糧です。

 臨床の風景にも少し触れたいと思います。ある時、Zernitz(ゼルニッツ)先生の臨床を見る機会がありました。その時、訓練室には先生と患者と僕の3人だけでしかいませんでした。マスターコースでサントルソの認知神経リハビリテーション研究所の臨床風景を見学されたことのある人は想像がつくと思いますが、訓練室は意外に狭く、4人部屋の病室ぐらいの広さです。そのような部屋が2階に3部屋、3階に1部屋あります。訓練室の中でゼルニッツ先生の治療が始まります。患者に座位を取らせて認知問題を出していきます。患者はその認知問題に対して解答をします。

 この静寂の空間で、愕然としたことに気がつきました。訓練室の扉は閉められており、密閉された空間なのですが、先生と患者のやりとりの間の静寂の中で、響きわたる「ある音」に気がついたのです。その音源は訓練室に掛けられてある壁掛け時計でした。その時計自体は何の変哲もない日本でもよく見るタイプの時計です。その時計の秒針の音が「カチカチ」うるさいのです!!訓練を見学しながら思ったことは「この時計うるさい!」でした。みなさんは普段の臨床で、時計の秒針がうるさいと思ったことはありますか?僕はそんなこと全くありませんでした。秒針の音がが聞こえる訓練室の状況など、経験したことはありません。

 サントルソの認知神経リハビリテーション研究所は「研究所」です。確かにその訓練室は研究所の一室です。研究所なので、濃密な時間を過ごしている、過ごすことができることは納得できます。ではサントルソの臨床が特殊なのでしょうか?私たちが行っている日本の臨床が普通なのでしょうか?私たちリハビリテーション専門家のするべき仕事は患者の運動機能回復です。それを否定する人はいないでしょう。患者の運動機能の回復には何が必要なのか。それは認知運動療法のベーシック・アドバンス・マスターコースを受講したセラピストならわかるはずです。ではその目的を達成するために必要な環境はどのような訓練室であるべきか。患者が注意を集中しやすい環境を整えるのはある意味、当たり前のことであり、運動機能回復を目指すのであれば、静寂は「普通」なのです。そう考えると、私たちの普段の臨床が普通ではないのです。

 サントルソの臨床を思考していかなければいけません。患者の運動機能回復を目指すのであれば。今、日本のリハビリテーションの臨床を変えていかないと患者もセラピストも不幸になるんではないのではないか。サントルソの臨床を見学していて、鳥肌が立った瞬間でした。

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